気になる歌があったが、赤丸
チェックしなかった。翌日、秀歌だったように思えてきて、確認しようとしたらどこにあったかさっぱりわからない。僕の赤丸チェックは、マッハの速度の
スーパーソニックである。だから、どの辺りにあったかすらおぼえていない。くやしい。皆さん、ちょっとでも気を引いた歌があれば、ちゃんとチェックしておいたほうがよいです。あとで探そうと思っても見つかりません。海に
落とした
ダイヤモンドみたいなもの。まあ、そのうちまた、偶然に見つかるかもしれないが、今回は紹介できない。残念だ。
今月の赤丸歌。花山欄作品1、166首。栗木欄、100首。真中欄、102首。吉川欄、130首。澤辺欄、122首。池本欄若葉集、71首。計691首。
「塔」十二月号「陽の当たらない名歌選」
過疎かそと嘆くを止めて沖を見よ「黒潮町」は鯨来る町 吉門やすし
昼寝せよ昼寝はよいと工場のつめたい床にわれら寝転ぶ 深尾和彦
算盤の工場の窓に母を見て珠けづる音に登校しけり 藤原勇次
かき氷の赤に染まりし舌のまま歯科医に行きぬ夏の日の午後
福島美智子
秋風に煙草をやめた訳をきく父はしずかに小犬を撫でる 原 ゆきこ
授業開始十分がすべて集中力の続かぬ少女と向き合へるとき 伊藤理恵子
似顔絵を舞台で画かれし老人は遺影にしますと礼をして降りぬ 清水千登世
みんなどこへ行つたんだらう校庭はもつと広いと思つていたが
青山幸重子
出棺の時刻と思い手を合わす海の向こうの逝きたる甥に 里田美恵子
「黙祷終わり」告げたる人は一分間秒針見つつ祈りていしや 本間温子
褒められてさびしきわれは煮魚の身をはがしたり箸の先にて 松村正直
他に意味はあらぬごとくに「お迎え」といえばすなわち保育園へゆく 秋場葉子
さうめんを束より抜きてかじるとき口の寂しさのみには済まぬ 朝井さとる
二度三度お金のことで失敗し打たれ傷つき僧となるらし 河野悠吾
運の良き人と
結婚すべきであったと
家計でいさかふ時に妻言ふ 総田正巳
わたしより死に近いやうなことを言ふ娘は
キッチンで水音をたて 柴 純子
弟にはだまつてゐろと父は言へり病室のドアをうしろ手にしめて 渡辺のぞみ
夜である証拠みたいに藍色のパジャマに着替え祖母と語れり 柴 夏子
雷がひかりとおとをわけてゆく言語化のできぬ八月終わる 柴 夏子
逃げ出しし豚を捜すと人々の騒ぐを後にし夕刊配る 石川 啓
十四歳(じゅうよん)の耳にのこれる放送のドラマ『狩衣』割(さ)かれゆく恋 児島良一
孫の顔桜金造に似しという嫁は言いても我は信ぜず 小山竹治
「冷蔵庫ケーキ一杯入れといて」細く細く痩せし子が言う 渡辺美穂子
朝五時の下宿に聞きし「荒城の月」紡績寮の起床の合図 金治幸子
わが孤独いつも猫に見つめられ猫の日常よりはみ出ることなし 長谷部和子
夏風邪に呪文のように葱きざむつくづきひとりになりたき夕べ 上條節子
つぎつぎと車がイタチを轢いていくイタチは生まれかわるだろうか 邑岡多満恵
震へつつ打ちあがりゐる花火かな卵子を探す精子のやうに 横山美子
萎えし花をつぎつぎ摘めるステテコの夫よ第二の職に馴れしや 石田和子
終い湯にひたりつつ聞くとなり家の老犬おほいなる鼾 川田伸子
以上、一読して強烈に印象に残った歌三十首。