「短歌人」の、20代30代会員作品競詠欄を、毎年楽しみに読んでいる。いつもながら意外に思うのは、出詠歌から想像していた作者のだいたいの年齢が、見事に外れることだ。そうとういい年だな、と思った人が実はまだ、この競詠に出る
資格のある年齢だったり、あるいは若い歌風の人が実はけっこう年配だったりして、これまた驚くことがままある。歌のイメージと作者がそのまま現実化することはほとんどない。それが、短歌の面白さだ。その点から言うとおれの歌なんて一発で年齢がばれるだろうな。ともあれ、「短歌人」若手歌人特集は、今年も面白い歌が多かった。来年がまた楽しみである。
では、気分を一新して今月の秀歌選に移る。今月の赤丸歌、会員1欄パート1、120首。同欄パート2、135首。会員2欄パート1、82首。同欄パート2、162首。計499首。
「短歌人」八月号会員欄秀歌選 その26
「いずれ…」とはもう来ないということなのだ 青葉揺らぎのなかに見送る 森谷 彰
まなかひを悪事のよぎる顔ひとつ回転扉に行き違ひたり 平居久仁子
恋人は眠りながらにくさめしてなにやら解(ほど)けてしまったようだ 田宮ちづ子
テレビにて疲れしわれはふと見たり壁のしづかな毒蛾の交合 佐々木和彦
出来たてのパンほおばれば消えていく我の怒りの短さ哀し 吉川真実
早朝にコンビニでパン買いし吾の証人は若き店員ひとり 関 浩子
裏山のホーホケキョの鳴き声が「トウシャピショ(またいらっしゃい)」に聞こえる不思議 池田弘子
他人事(ひとごと)のやうに聴く子ら前にして己れに酔ひて戦争を語る 中山邦子
同人誌「花なき薔薇」は痛そうでついに中味を知らざりしまま 岡 頌子
都会より星は四、五倍かがやくと左遷の憂き身にふれぬも気概 竹浦道子
地下街の出口を塞ぐ夏空を目指して登る汗にまみれて 関根忠幹
「純粋」の意味とは?白にも濃淡があることを知る霧深き朝 里川憐菜
戦後史のさ庭に揺れる白菖蒲、白は無念の色と言いしひとあり 松岡壱八
駅員の車内放送節づいて花魁言葉は方言かくしと 鳴瀬由良
そうですねと言いて下がれる妻怖るこのまゝで済むことはなからん 小林惠四郎
放射線
治療に激しく咽乾けば水を求めし被爆者想う 神林千代松
爺ちゃんは読んでゐるのかゐないのかあの世みる眸(まみ)で
新聞にらむ 大畑敏子
雨の日に窓磨かむと決めたるは母亡くなりしのちのことなり 朝生風子
カーテンも閉めず着替へる上役の癖にも慣れて挨拶交す 犬伏峰子
上目遣いに見交はしてわらふ女たち京の町屋はひめごとめきぬ 関口博美
軒庇のふれあう路地の家々の上がり框に老人のゐて 牛尾誠三
経歴のどこかに人は翳をもつ雲に遅速の梅雨空暮れつ 早川清生
公営団地の隣同士の老いふたりおなじ日の朝遺体で見つかる 藤井眞佐子
野球選手の父は子育てを能く語り力士の父は語らぬ多し 吉岡 馨
立待岬とどろく波に若からぬ女の傘のはるかうすみどり 田上起一郎
無人駅のホームに立てば日傘さす母と向日葵の遠き幻 菊池尚子
息子誉め嫁褒め孫讃む自慢気な老女 永きに面会者なし
川崎義一
寂しさは常盤木落葉の散りざまよ風も吹かぬに人も来ぬのに 坂井あゆみ
歌一首残していつた旅行者の 春の鞄の古傷みたいに 矢野佳津
以上、厳選三十首。今月も面白い歌が揃った。「短歌人」の歌は、「塔」のそれよりも、
ダイレクトに僕の
ハートに突き刺さる歌が多い。