三月号、作品1欄、作品2欄を通して読んだ感想として、死を詠った作品が多かったような気がする。死というのは、普遍的なテーマではあるが、史上前例のない高齢化時代を迎え、死に対する切り口も変わってくるだろうし、高齢者の高齢者による高齢的な衰弱死を詠う歌が一つの潮流となっていくだろう。
吉川欄作品1、196首。澤辺欄、150首。池本欄、175首、計521首。後半戦の結果はまた後日。
「塔」三月号「陽の当たらない名歌選」その1
誰の死が着初めとならむ顔のしろさ際だつる喪の服試着す 鮫島浩子
シマダクンに鈴つけるなと子らの言ふ野良の世界でいぢめられると 青山幸重子
夕暮れてさよならしてゐる女の子わがふる里の道で出会ひぬ 藤原はつみ
左右の手の甲を走れる静脈の異なるを見て雑巾しぼる 高橋れい子
紙当たりよき赤ペンに持ち替えて「至急」と記す大き付箋に 秋葉葉子
波の寄す擬音のやうに落葉掃く背広姿を私は見てゐる 出 奈津子
えんぴつを噛む老い猫のよこがおに糸切る母をしばし思えり しん子
再投稿せし歌採られたるごとき結論の出づ朝の会議に 本間温子
田仕事を終へたる妻は鍬握るかたちに指を曲げて眠りぬ 郡山紀男
書きかけてやめた手紙の空白に安曇野往きの列車が走る 数又みはる
大菜(おおな)とふ魚との出会ひ語りつつ義父(ちち)は少年の日に戻りゆく 山地あい子
ガイド言ふを紙に書きゐる添乗員手話の夫婦と共に旅行く 嶋寺洋子
二十人の運動会は大忙し父兄もたっぷり出番を受けて 津野多代
酸素吸入不要になりて涼しげな姑の手取れば指ずもう始む 中村ヨネ子
ジョンフォードポイントにああわが立てり名画さながら砂塵は叫ぶも 西本利徳
死ぬことをただに怖れゐし父を台風が連れてゆきしと便り届きぬ 村田弘子
うす暗き建物に入り眼から滲みはじめる京都のくらさ 山内頌子
末期がんの友が洗礼受けると言うひとりで死んでいくのはさびしいと 渡辺久美子
こんなにも父はちひさき人なのか諍いの後の背はまろくて 澄田広枝
汚れたる皿を重ねて立ちきたり もう仲裁はしないと決めて 筑井悦子
苦労多き漫画家といふ道をゆくおまへが息子であるをよろこぶ 助野貴美子
オロナインすりこんだ手が暖まり祖母から冬の匂いがしていた 黒木孝子
わたくしのことは今日からぜつたいに歌にしないで 今朝言はれたり 久保茂樹
わが授業をつまらぬと言い本閉じぬクラスで一番まじめな生徒が 澁谷義人
生きゐるが手柄と励まし手術後の麻酔より醒めし妻の手握る 関山正雄
服を着た犬と目があう駐車場きさまに負けるわけにはいかん 西之原正明
今一度歌集を出さむその経費葬式用に残せと言う声 村上耿志
わが詠みし韻文のやうなるひびきもてつきまとふ蚊をばつしと打ちぬ 若松忠雄
命毛のわずかに残る小筆なり静かに今年も筆を拭きをり 永井千裕
かの道に立たせ給へや幼き日に五円玉握りて訪ひこし人の―冬道麻子 安藤純代









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