2007年06月22日

811 赤丸歌数新記録!「塔」6月号、陽の当たらない名歌選

 僕は、赤丸チェックをし、その中でピックアップする歌を選び、それが決まった最後に、「百葉集」を読むようにしている。びっくりたまげた。何千首となくある中で、河野選の第一席と僕のそれとが一致したのだ。なんでやねん。僕は、選者と選が一致することをあまり好まない。なぜなら、僕だけが選ぶ歌を選んでこその「陽のあたらない名歌選」だからだ。本当にまいった。「わけいってもわけいっても青い山」ではないが、「めくってもめくっても歌の山」というほどの「塔」の掲載歌は増え続けている。ただ、どれだけ増えてもそういう理由ではこの名歌選はやめない。なぜなら、名歌選をすることはすでに私の習慣となっているからである。ものごとをやり続けるうえで、習慣にするほど確かなことはない。シェイクスピアも言っている、「習慣を壊すことはすべてを壊すことです」(「シンベリン」より)。もちろくんそれだけでなく、名歌選の読者数が多いことも、励みとなっていることも正直に告白しておこう。
 今月の赤丸歌、花山欄作品1、257首。栗木欄165首。真中欄163首。吉川欄165首。澤辺欄207首。池本欄若葉集、95首。計、1052首。この赤丸歌数は、ししししし新記録である。

      「塔」六月号「陽の当たらない名歌選」

捕獲さるる度に誰かが引取りて四丁目にゐた「あか」といふ犬 酒井久美子
遺されし者らに幸を運ぶ死の確かにあるを確めたら泣け 保村たまき
二人子が帰り来たりてこの家は重くなりたり廊下が軋む 鵜原咲子

麦わらのストローのさきのしゃぼん玉ぼんやり重きこどもの時間 出 奈津子
恋をする心のかたち忘れたりふくらみたりしかえぐれたりしか しん子
そば屋にてそばを食いおり息子の嫁と嫁の母との前に座りて 竹之内重信
蓮華寺の森に見えない空があり疾風ゆくたび音がおりくる 林 芳子
沖つ波白煙上げて寄せてくる貧しき村を富まさぬやうに 廣 鶴雄
分度器に五円玉下げ朝方まで星にかざして耳を澄ませり 昔 村山悠子
店員を叱り続ける客のあり海の幸のスープを飲みながら聞く 松村正直
梅の咲くした車椅子の老人(おいびと)はまがれる口に紅さしてをり 梅田啓子
白菜を一枚一枚剥いでゆく手抜きを許さぬドラマのように 秋津 霧
次つぎとチャンネル変える夫といる居間の湿度は七十度越え 近藤桂子
年齢差父ほどの兄が長持唄眼を閉ぢうたひきわが婚の日を 立川目陽子
道祖神拐わかされて村のみち春の日のなかあそぶ子いない 村瀬美代子
雨戸閉ずその隙間にぞ我は見しむかし投げたる乳歯の咲くを 小林敦子
むかしむかしヒューズが切れた暗闇にたのもしかった父のあの声 潮見克子
やさしい子だったと今も母は言う子を生まぬころのわたしを 川野久子
教室の窓より光る森見えて行けども行けどもその森はなし 乙部真実
アルバイト求人票の一隅に漢族女性限定とあり 加藤ちひろ
若き日に誰かの未来にいたはずの吾なおひとりゴドーを待ちおり 田崎瑠実子
作りたる吾が稲荷ずし幼らは百個食べたきと言ひてくれたり 水口秋桜
彼の日々の子らの体重恋うるべし草の中なる古きブランコ 吉田節子
水槽のめだかの生死確かめん大きく写るわが顔が邪魔 金原華恵子
ヒマラヤの雪塩入れては入浴の姉が今凝る珈琲浣腸 倉谷節子
情緒的な咳をするねえ 雪がふる温泉宿でいつか言いたい 徳重龍弥
カーナビに「岡山県に入ります」告げられて越す辰巳峠を 大川直子
ゆきやなぎに揺るる街角 歩くとき手をつながせた恋はなかつた 朝井さとる
幼かりし写真のわれと向かい合い夢破れしと謝りにけり 飯村みすず
老女なる役も似合ひていしだあゆみあはれ今でも眼大きく 鈴木俊春

 毎度言っているが、今月はとくに、映像的に優れた短歌が多く、まさに秀歌揃いであった。読者は、読みとばすことなしに、私の選んだこの歌たちを一首一首じっくり鑑賞して欲しい。私の選んだ三十首をつまらんと言うやつがいれば、そいつには歌を読む能力がないとはっきり断言する。それにしてもだ、繰り返すが、なんで何千首もある中で、私のベスト3中の2首が百葉集と一致するのだ。私は本当に口惜しい。私が選ぶ歌は、まさに私だけが選ぶ歌であるからこそ価値があるのだ。なんだか、とっておいたお菓子を人に先に食われてしまったような気分なのである。
 なお、一首選では取り上げづらかったが、連作として優れた作品も多かった。これも、いずれ当日記にアップしたいものだと思う。
ニックネーム 茶トラのみんく at 22:55| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
毎度毎度すごいなあというか、継続は力なりというか。
若手の歌評が薄いのは、世相が薄っぺらくなったからでしょうか。映画を見てる世代と、テレビメインの世代には何かふかーい溝があります。

宿六は映画マニアなんですが西部劇・戦争もの・ロボットアニメ…要するに戦いが出てくるのがすきなのかなという感じです。
Posted by ふゆのゆふ at 2007年06月23日 13:24
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