2007年07月09日

826 愛誦性(ヒット性)こそが命〜「塔」上半期陽の当たらない名歌選ベスト三十

 今年も半年が過ぎた。恒例の、上半期ベストを発表したい。
 何度読んでも飽きない歌とはなんだろう。それは、イメージの広がりと、刹那を衝く的確な描写力だと思う。単純な歌でも、その視点の鋭さによって、いくらでも読者のイメージを広げることができる。たとえが妙かもしれないが、ギターで言えば、Cの循環コードに、無限のメロディのバリエーションが生じうるということだ。ポップスの名曲「ダイアナ」なんて、CAmFG7のたった4つの繰り返しであんないい曲たりえている。「上を向いて歩こう」だってGの循環(ちょっと違うとこもあり)だし。ポリスの大ヒット曲「見つめていたい」も一見簡単で単純そうだが、奥深く、歌おうとして挑戦したものの大部分は沈没するであろう。僕は、上手い歌、技巧がかった歌には興味がない。というか、飽きる。短歌は、マイナーコードのこんぐらがったものではなく、CやGの循環コードに基づく普遍的韻律であってほしいものである。すなわち単純な表現(愛誦性、ヒット性)を持ったものであるべきだということなのだ。現代短歌にはそれが決定的に欠けている。小難しいくせに、瑣末すぎてくだらないことばかり歌いくさって。
 では、「塔」の上半期ベストの発表である。ぱんぱかぱん。一首一首、じっくり鑑賞していただければ幸いである。

      「塔」上半期陽の当たらない名歌選ベスト三十(順不同)

捕獲さるる度に誰かが引取りて四丁目にゐた「あか」といふ犬 酒井久美子

麦わらのストローのさきのしゃぼん玉ぼんやり重きこどもの時間 出 奈津子

教室の窓より光る森見えて行けども行けどもその森はなし 乙部真実

つくりたる吾が稲荷ずし幼らは百個食べたきと言ひてくれたり 水口秋桜

遺されし者らに幸を運ぶ死の確かにあるを確めたら泣け 保村たまき

手を振れど気付かれざるに下がりゆく右手はしばし髪に触れおり 永田 紅

母言うを確かめんと顔寄せるとき難聴吾の眼鏡吹っ飛ぶ 橋本英憲

この病室に妻逝きすでに九年経しドアの取っ手に手触れて帰る 相沢大也

かすかなる鈴打つ音を二度聞きぬ空耳ならず確かなる音 河合貞子(故人)

ひとり居のきらいな人とこなごなの時間のなかに鶴を折りあう 山下 泉

不幸なのがいやなのではなく不幸だと思われるのがいやだと泣いた 飯村みすず

さまざまな武器を持ちたる右の手に今は静かに杖を突きゐる 藤本北夫

あなたとは一度も喧嘩をしなかった死に近き母がぽつりと言えり 徳永香織

狼に見えなくもない影曳いて犬の小丸(こまる)が前を歩めり 柴 純子

台風は家族を居間に集わせて思い思いの話をさせる 金丸繁利

むかしむかしヒューズが切れた暗闇にたのもしかった父のあの声 潮見克子

履歴書の趣味・特技欄いっぱいに白いインクで「詩人」と記す 相原かろ

怪奇的青空のもと読みかへすニュースをすでに読み物として 澤村斉美

袴付けブランコに立ち乗りする母を撮影したる人物不詳 山内貞子

あの人はネコのような人だった溜め息なんて似合わないひと あかり

ワイパーが雨の凄さに追いつかないここで降りてと目を見ずに言う 空色ぴりか

こんなにも孤独が辛いものだとは不覚でしたと告げて友逝く 安川良子

駅に会ひ駅に別れし武田尾の駅は無人の風くぐる駅 友田勝美

ブランコの高くなりゆくときが好き みぞおちがふわり未知にふくらむ 井上良子

黄葉の散りて小暗し帽子ぬぐ兵士のように暮れゆく窓は 山下 泉

京都駅のずうっと奥と人の詠む山陰線にわたくしが住む 白根佐知江

ぼそぼそを何か言いつつ遊びいるこの一人子はさわぐことなし 須藤冨美子

ががんぼは身の不始末を詫びにきたあの夏の痩せた叔父さんのやう 久保茂樹

祖父の名は愛蔵≠ニいへり墓石に刻まれてあることのみに知る 西内絹枝

山に慣れし足にて歩む谷の道妹は唄うたっていたのかも 金森靖子

 以上、厳選三十首。

 僕は、技巧とか、修辞とかにまみれた、いかにも「作りました」という歌は大嫌いである。読めばすぐわかるのである。ここに挙げた三十首は、シンプルでありながら、何度読んでも飽きないドラマ性に満ちている。どの作者にとっても、おそらくは変にひねったりせず、心のままに刹那を詠ったものであろうと想像される。短歌とはこうでなければいけない。短歌とは、カーブやフォークや大リーグボール一号ではいけない。あくまでストレート勝負である。でなければ、読者の心に残ることはない。もちろん、啄木のように多少は技巧も必要ではあるが。
 「短歌人」名歌選はまた後日。お楽しみに。
ニックネーム 茶トラのみんく at 21:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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