今号は、絞りに絞っても、どうしても32首になってしまった。しかし、2首をあえてカットする。どなたかの選歌欄で採られることを信じる。採られなかったら、そのときはじめて僕がここにアップし、批評を書きます。今号も大激戦だった。
今号の赤丸歌、栗木欄作品1、196首。真中欄147首。吉川欄130首。澤辺欄131首。池本欄121首。花山欄若葉集、136首。計861首。
「塔」7月号・陽の当たらない名歌選
卒寿にて襁褓換えるを拒みいる母は赤線に売らるるを恐れ 中尾純子
悲鳴にも似た音をたて抵当に入りし向つ家こはされゆきぬ 水口秋桜
妻を亡くしし人十日経て出でて来ぬ許されし休暇は十日であれば 荒井直子
それぞれのうたをもち寄るこのゆふべわかれゆくため何度でも会ふ 佐藤陽介
選らばれし短歌少なき月なれば同じ少なき人の歌読む 鈴木俊春
バイタルチェック触れる老の手戯れに握りてくればそつと返しぬ 村木幸子
自治会費春の真昼を集めゆくいずれも音無き家をめぐりて 天野和子
降りてゆく人のひかがみ嗅いでおりバスの通路の盲導犬は 吉川敬子
宿無しの三毛猫テラスに七年を生きて早春の朝に死にたり 鳥居絹代
この医師の受診はもう止めにしようか貧乏ゆすり初めて気づく 西沢 良
やわらかに揺らぐ火群(ほむら)に手紙焼(く)ぶ火種の古きこの恋の束 歌川 功
中座する客をさかなに手もみする談志は膝に右ひじ移す 村松健彦
カレイシュウが加齢臭のことと気づく際刃物のような冷たさがある 池田幸子
震災前震災後と「事」を思ふなり戦前戦後と意識するやうに 小菅悠紀子
晩年の心構へを一人が言ふ相手の老いが大きくうなづく 後藤悦良
舫ひ杭に夜どほし繋がれてをれば小舟、みづから傷みてゆきぬ 梶原さい子
千年を経ても貧しき海女の村海が痩せゆく磯が痩せゐる 廣 鶴雄
少女期に海もて母を失ひしその子も海女に海憎みしも 廣 鶴雄
耳悪しき故の大声哀れとも海女ら我が家の灯へ帰りゆく 廣 鶴雄
新聞を綺麗にたたむこの人は丁寧ならむ人捨つる日も 秋場葉子
懐かしい人のようにも庇よりずり落ちてゆく雪をおもえば なみの亜子
名を呼ばれ診察室に行く人のふっと大きな息聞こえたり 小橋扶佐子
加齢臭がつきまとうてゐる少女居て家庭の事情を思うてみたり 新谷休呆
あさましき平和の顔がのっそりとひめゆり部隊の壕を覗きぬ 関野裕之
群れてゐる鴉に分け入るゴミ収集車赤とんぼを鳴らして巡る 武山千鶴
隣席より笑みかけて来る幼な児をやさしき媼のふりにあしらふ 廿日富貴子
さんずいに戻すと書けば「涙」にて泣けばわたしが戻ってきたる 井上良子
ふたりしてつひの住処の場所さがす霧の多い町はよしましょう 古堅喜代子
うらぎりは裏切るまでが苦しくてしらしらと夜はあけはじめたり 久保茂樹
その昔こころ病む人住んでをり「天文学者」と皆に好かれし 古賀公子
以上、厳選三十首。三十という数を守るために、相当数の歌を涙を飲んで押さえた上でのアップである。読者は、読みとばすのではなく、じっくり一首一首鑑賞していただきたい。なお、やむなくアップできなかった名歌は、各選歌欄で取り上げられることを心から願っている。
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この歌、いい歌なんですが、旧かなと新かなが混じってしまってませんか? 気になったので。
おっしゃる通りです。作者の他の作品は旧かなで統一されているので、ひょっとしたら誤植かもしれません。書き写しは掲載されたそのままやっています。ただ、この歌に関しては、結句は「よしませう」より「よしましょう」の現かなのほうが合っているように思えますね。