2007年08月22日

861 「六千万個の風鈴」

 「短歌研究新人賞」、「六千万個の風鈴」吉岡太朗を読む。選考委員が、彼に新人賞を与えたこと、これは「賭け」と言っていいだろう。ちょっと俺は、「やばいな」という気持ちで見ている。
 確かに、こういうタイプの歌はあってもいいし、俺の嫌いなへなへな短歌とは違ってその表現している世界を本当に愛しているという実感が伝わってくる。俺はSFとか近未来とかに題材を取った作品が嫌いなのではなく、実は全然SFもオタクネタもわかっとらんくせに表面的にそれをいじってるだけの作品が嫌いなのであって、その点吉岡氏の受賞作は、あるジェネレーションの本当の本質を自分の言葉で表現し得ていると思われ、好感が持てるしジャンルとして自立していけるものだと思う。が、それでもなお俺はやばいと思うのだ。なぜかと言うと、俺のような、いわゆる第一オタク世代に属しながらちっともオタクでない、でもゴジラ関係のことや昔のSFドラマは常識として知っているような人間からするといかにも既視感に満ちている。選評にもあったが、漫画や映像など他の媒体ですでにやり尽くされてしまったこと、な印象なのだ。誤解しないで欲しいが、僕は他の媒体で表現されたことをそっくり短歌へと移植する、というのも表現としてありだと思っている。僕だって日本映画の内容を短歌で表現し直すという試みをよくしている。しかしそれは果たして、新人賞という、まったく新たな感覚が望まれるものに対してふさわしいだろうか。これは俺が門外漢だからこそ強く感じることだろう。なんていうか、あえて言えば陳腐なのである。
 その受賞作のなかから、好きな歌を3首挙げる。

すぐ花を殺す左手 君なんて元からいないと先生は言う 吉岡太朗
窓ぎわの席の男もそうだろう街には無数の約束がある
新しい世界にいない君のためつくる六千万個の風鈴

 一首目は、「時をかける少女」などでおなじみの、自分以外は同級生のことをだれもおぼえていない、記憶抹殺テーマだろう。二首目と三首目は、分岐してゆくパラレルワールドを詠っていると解釈する。悪くはないのだが、元ネタがすぐに連想できてしまいインパクトに欠けるのである。SF的設定を扱ったアニメなどによって繰り返し刷り込まれた、この世代にとっての共通記憶に立脚しており、それが全てであって、彼ならではの感性というものを発見して衝撃を受けるということがない。彼は京大短歌会に所属しているという。それは、つるりんとした喉越しのいいそうめんみたいな歌を詠う集団であり、噛み付きようがなく、「お公家短歌」と僕は呼んでいる。正直言って好きではない。その、お公家短歌の中にもこういう人がいた、というのは確かに面白い。この一連が受賞作であることに文句を言うつもりはないが、なんだかワタガシを噛んでいるような、「なんだかな〜」という気持ちである。靄のかかった新人賞受賞作だとしか言いようがない。
 次席や、最終選考通過作品も読んだ。はっきり言って大した作品はない。あえて言えば、「センセイ……ですか?」佐藤理江が面白かった。あとは正直言って、どーでもいい。去年は、受賞作はひどかったが、その代わり次席以下に留まった作品にいいのが多かった。思うのだが、新人賞って毎年出さなくてはいけないものなのだろうか。今年は、「該当作なし」が正解だったと思う。ただ、吉岡の作品が受賞したことには、それなりに意味があるかもしれない。ヴァ―スからライトヴァ―ス、そしてニューウエーブ短歌へと逸れてきたひとつの流れは、ここに完全に断ち切られた、ということだ。ニューウエ―ブ短歌の連中にとって、SFめかした題材はあくまで現実を軽量化するための道具に過ぎず愛が感じられなかった。この場合の愛というのは好いた腫れたのそれではなく、肉と霊との両方で相手を掴んでいるか、肌や骨で理解しているかどうかということである。そういう点で、吉岡太朗はその表現の対象を確かに血肉で捉えている。彼が詠っているのは彼を形成しているものだという感じが確かにする。ニューウエーブ短歌が終息し、彼らがもてあそんできた対象が立派に一つの文学的芯として機能し始めた証拠だろう。オタクネタなんて、こてこての情念がなけりゃ目も当てられないんである。
 誌面を見て、僕が名前を知っているかたがたも数多く応募されていることを知る。皆さん頑張っているな、と思う。ただその反面、新人賞への応募は、何年か続けたらどこかで見切りをつけるべきだと思う。力(りき)のこもった、賞をとれるほどの連作だったら、最初から結社誌に発表すべきである。春畑茜氏が、去年をもって新人賞への応募をやめる旨宣言したことはひとつの見識だと思う。毎年毎年、自分の名前が総合誌に載って喜んでいるざまは、文学者としてみっともないと僕は思うのである。

ニックネーム 茶トラのみんく at 22:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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